リンパ浮腫とは

リンパ液が溜まった状態のこと

 

監修:
JR東京総合病院 リンパ外科・再建外科 医長
原 尚子 先生



リンパ浮腫とは?

私たちの体にはすみずみまでリンパ管が張り巡らされており、その中をリンパ液が流れています。リンパ管の中をリンパ液がスムーズに流れなくなると、腕や脚が腫れてしまい、これをリンパ浮腫と呼びます。「浮腫」とは「むくみ」のことです。このむくみは完全に治るものではありませんが、適切な治療を受けることで症状はかなりよくなります。長い目でみて、生活の一部としてケアを続けていくことが大切です。



リンパ浮腫の原因– リンパ液はどのようにたまるの?

リンパ管は、私たちのからだの免疫機能を担っています。また、老廃物の回収、排出の役割もあり、リンパ液の中には、血中たんぱく質や脂肪酸、代謝物質、炎症で生じた老廃物などが含まれています。リンパの流れがダメージを受けると、そのような老廃物を含んだリンパ液が腕や脚に溜まってしまいます。

リンパ浮腫には、体質による一次性(原発性)リンパ浮腫と、がん治療や外傷などによって起こる二次性(続発性)リンパ浮腫があります。

一次性(原発性)リンパ浮腫

生まれつきリンパに何らかの異常があるタイプです。多くの場合、リンパ管やリンパ節が未熟だったり、形がいびつだったりします。原発性リンパ浮腫の場合、生まれたときから症状がある場合と、成長してから症状が出る場合があります。原発性リンパ浮腫の原因ははっきりしないことが多いですが、以下のように分けて考えられています:

  • リンパ管がない(リンパ管の発育不全)
  • リンパ管が細い、もしくは少ない(低形成)
  • リンパ管が異常に太くなっている(過形成)
  • リンパ節が硬くなっている(リンパ節の線維化)
  • リンパ節がない、もしくは少ない(リンパ節の発育不全)

原発性リンパ浮腫は、クリッペル-トレノネー症候群などの先天性疾患の一部としてみられることもあります。

二次性(続発性)リンパ浮腫

生まれつきではなく、がん治療やケガなどでリンパ管がダメージを受けたときに発症します。多くの場合はがん治療によって起こり、子宮癌や卵巣癌のあとには脚のリンパ浮腫、乳癌のあとには腕のリンパ浮腫が起こります。続発性リンパ浮腫の原因には以下のようなものがあります:

  • 手術(リンパ節の完全もしくは部分切除)
  • 放射線治療
  • 腫瘍などの悪性疾患
  • 外傷
  • 皮膚の炎症(蜂窩織炎など)

特殊なケース:がんによるリンパ浮腫

がんがリンパ管のすぐ近くにできると、リンパ管が押しつぶされてリンパ液が流れにくくなり、続発性リンパ浮腫になります。リンパ液の通り道であるワキのリンパ節に乳がんが転移している場合にも、腕に続発性リンパ浮腫を発症することがあります。



リンパ浮腫の症状

腕や脚にむくみが出て、長期間続きます。リンパ浮腫の症状には、下に挙げるようなものがあります:

  • 片側(左右非対称)の腕や脚のむくみ(脚の場合は両側のこともあります)
  • 関節などの皮膚のみぞが深くなる
  • 足裏のアーチや手の甲にむくみが出る
  • 皮膚の色は他のところと変わらない(赤みなどはない)
  • 皮膚が硬くなる
  • シュテンマーサイン

シュテンマーサインでリンパ浮腫を早期発見しましょう

「シュテンマーサイン」は、リンパ浮腫の簡便な診断方法のひとつです。例えば、足の指の皮膚をつまみ上げてみましょう。

  • シュテンマーサイン陽性:皮膚がつまめないくらい硬い場合や、皮膚をひっぱり上げられない場合は「シュテンマーサイン陽性」といい、リンパ浮腫の徴候になります。左右の皮膚で比較してみると分かりやすいです。
  • シュテンマーサイン陰性:皮膚を簡単につまみ上げることができれば「シュテンマーサイン陰性」となります。今のところ明らかなリンパ浮腫の症状はないということですが、これだけで完全にリンパ浮腫でないと診断できるわけではありません。少しでも気になる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

医療機関のリンパ浮腫外来、形成外科などを受診すると、リンパ浮腫の診断、治療が受けられます。治療を始めるのが早いほど、いつまでも良い状態で生活することができます。



リンパ浮腫のリスク因子

リンパ管やリンパ節が強いダメージを受けるとリンパ浮腫になります。リンパ浮腫のリスク因子には以下のようなものがあり、注意が必要です。この中で、肥満、体重増加は自分で気をつけることができるので、体重が増えないように日頃から心がけましょう。

  • がんの治療(リンパ節の切除、放射線治療、一部の抗癌剤治療)
  • 肥満、体重増加
  • 皮膚の感染症
  • 大きな外傷
  • 静脈疾患(重症の静脈瘤など)


リンパ浮腫のステージ分類


0期 – 潜在性リンパ浮腫

リンパ管のダメージはあるが、まだ目に見えるむくみがなく、リンパの流れは正常



1期 – 休めば自然に改善するリンパ浮腫

日中はむくみが出るが、脚や手を挙げて休むとむくみがなくなる。皮膚を指で押すと、指の痕が残る。

  • リンパの流れがダメージを受けている
  • 日常生活でむくみが起こる
  • 腕や脚を挙げて横になるとむくみが軽くなる
  • 指で皮膚を押すとはっきりと痕が残る


2期 –休んでも残るリンパ浮腫

長時間休んでもむくみが残る。皮膚が硬くなってきて、腕や脚を挙げても改善しない。皮膚を指で押しても痕が残らない、もしくは硬くて押せない状態。

  • 硬いむくみ
  • 横になったり、腕や脚を挙げて休んだりしてもむくみが減少しない
  • 皮膚を指で押しても痕が残りにくい、もしくは残らない


3期 – 象皮病

皮膚の変化を伴うむくみがある状態(小さな水疱ができる、リンパ液が漏れ出るなど)。

  • 腕や脚が変形するほどの強いむくみ
  • 皮膚が硬くなる
  • 皮膚に水疱ができ、リンパ液が漏れ出る
  • 合併症:皮膚感染症、傷が治りにくい


脂肪性リンパ浮腫や静脈性リンパ浮腫

 

脂肪性リンパ浮腫

日本ではあまり見られませんが、欧米では「脂肪浮腫」という疾患があります。脂肪浮腫は、脚や腕に脂肪が異常に沈着した状態のことをいいます。この沈着によって皮下脂肪がリンパ管を押しつぶしてしまうと、続発性リンパ浮腫が起こることがあり、これを脂肪性リンパ浮腫と呼んでいます。

静脈性リンパ浮腫

静脈瘤などの慢性静脈疾患も、続発性リンパ浮腫を引き起こす可能性があります。これを静脈性リンパ浮腫といいます。静脈の機能が低下した状態が続くと、血管から組織に漏れ出る水分の量が増えてきます。初めは、漏れ出た水分をリンパ管が吸収してくれるので問題ありませんが、リンパ管の許容量を超えてしまうと、むくみが出ます。


リンパ浮腫の予防

原発性リンパ浮腫の場合、生まれつきリンパ管の異常があるため、残念ながらリンパ液が溜まるのを予防することはできません。また、がんなどの治療を受けた後、リンパ浮腫にならないように予防するための予防法(お薬や食品など)も、現在のところ確立していません。しかし、ひとつ言えることとしては、体重を適正にコントロールすることが、リンパ浮腫予防のためにとても大切です。まずは毎日決まった時間に体重計に乗ることから始めてみましょう。

どうやってリンパ管の負担を軽減するか

むくみが出やすくなるようなことや、リンパの流れが悪くなるような行動を避けるようにしましょう。

リンパ管に負担をかける要因 (避けた方がよい行動) 

  • 長い時間座ったまま、立ったままで過ごす:定期的に手や足を動かしたり、腕や脚を挙げて休んだりするようにしましょう。
  • 締め付けがキツイ衣類:ゴムの入った下着など、衣類による締め付けがリンパの流れを悪くします。 
  • 肥満: 体重が増えると脂肪がリンパ管を押しつぶし、リンパ管に負担がかかります。
  • 長時間の日光浴、サウナや熱い湯船につかる: 体を温めると、リンパ管に余計な負担がかかってしまいます。

診断と治療

リンパ浮腫は慢性疾患であり、今のところ完治は難しい病気ですが、適切な治療を続けることでむくみを改善し、良い状態を保つことができます。最も効果的なリンパ浮腫の治療方法は、複合的理学療法(CDT)と呼ばれる治療です。複合的治療を行ってもむくみが改善しない場合、手術という方法もあります。


複合的理学療法(CDT)はリンパ浮腫の基本的な治療方法です

複合的理学療法(CDT)は2つの時期に分けられます:

第一期 – 集中治療期:

溜まっているリンパ液を排出して腕や脚を細くするために、弾性包帯による圧迫療法や用手的リンパドレナージを行います。通常、この治療には数週間かかります。これ以上細くならないくらい腕や脚のむくみが取れたら、次の維持期に移ります。

第二期–維持期:

維持期の目的は、むくみが取れて良くなった腕や脚の状態を保ちながら、皮膚などの状態をよりよくしていくことです。維持期のケアは、基本的に一生続けていくことになります。症状に応じて複合的理学療法の中の治療を組み合わせて行います。

弾性包帯による圧迫療法は、弾性ストッキングに変えていきます。スキンケアや運動療法も大切です。



複合的理学療法(CDT)の5つの柱

1. 用手的リンパドレナージ(MLD)

用手的リンパドレナージは、エステなどで行われているリンパマッサージとはちがい、リンパ浮腫専門のセラピストが行うマッサージで、特別なテクニックでリンパの流れを促します。マッサージの刺激でリンパ管の動きがよくなり、溜まったリンパ液を排出していきます。


2. 圧迫療法

弾性包帯や弾性着衣(ストッキングやスリーブなど)を使って、患部を圧迫する治療です。集中治療期には、MLDを行ったあとに弾性包帯を使って圧迫療法をします。集中治療中は日々腕や脚が細くなっていきますので、それに合わせて包帯を巻くことで、さらに少しずつ腕や脚を細くしていきます。MLDで一時的にむくみがよくなっても、圧迫を行わなければまたあっという間にむくみが出てしまいますので、必ず圧迫療法を行うことが大切です。

維持期には、主に弾性ストッキングを使ってむくみの再発を抑えます。弾性ストッキングは、必ず医師の指示、指導の下でお使いください。


3. スキンケア

リンパ浮腫を発症した皮膚にとって、毎日のスキンケアはとても重要です。 リンパ浮腫の皮膚はとても敏感で、かゆみや乾燥が起こりやすい状態です。乾燥した皮膚は感染症や炎症を起こしやすく、バリア機能が低下してしまいますので、しっかり保湿をしましょう。

ポイント: リンパ浮腫があると、ちょっとした皮膚のかゆみや赤みでも蜂窩織炎などの炎症につながることがあります。早めに皮膚科医やセラピストに相談しましょう。


4.運動

リンパ浮腫になると安静にしたくなりますが、実は逆で、運動をすることはリンパ浮腫治療のためにも健康的な体をつくるためにもとても重要です。できれば用手的リンパドレナージのあと、圧迫を行った状態で運動をしましょう。運動することで圧迫療法の効果がさらに出やすくなります。


5. セルフケア

リンパ浮腫と上手におつきあいするためには、医師やセラピストに治療を任せるのではなく、自分でできるセルフケアをしっかり行うことが重要です。圧迫療法やスキンケア、運動、体重コントロールなど、治療法をよく理解して、医師やセラピストと一緒に練習し、生活の一部として取り入れていきましょう。

図解:むくみケアと食生活
健康のために、正しい食生活を。

図解:むくみケアと食生活


日常生活での注意点

生活の中の小さな工夫で、むくみが改善します:

  • スキンケアをしっかり行い、皮膚を傷つけないようにしましょう。: リンパ浮腫患者さんの皮膚は感染、炎症を起こしやすいです。
  • 定期的、継続的な運動を生活に取り入れましょう。
  • あなたに合った、適切なエクササイズ(水泳や水中エアロビクス)やケガのリスクが低いスポーツからはじめてみましょう。
  • 小さな傷やケガも、きれいに洗って手当しましょう。
  • もし皮膚に赤みや腫れ、熱感がある時は、すぐに医療者/セラピストに相談しましょう。
  • 最後に重要なポイントとして: 弾性着衣(弾性ストッキングや弾性スリーブ/グローブ)を毎日着用しましょう。特に運動をするときにはぜひ着用してください。

ポイント: 患者会や市民公開講座などで、他のリンパ浮腫患者さんと情報交換をしてみませんか?同じ立場の人同士で、お互いに助け合うきっかけにもなり、それぞれの経験や治療に関するニュース、日常生活に関することなどを共有することができます。さらに、リンパ浮腫専門の医療者/セラピストが開催するセミナーなども行われています。

リンパ浮腫は何科の先生に診てもらう?

状況によって、婦人科や乳腺外科、形成外科、もしくはリンパ浮腫専門のクリニックなどを受診します。まずはかかりつけ医やがんの治療の主治医に相談し、より専門的な診療科や複合的理学療法を行ってもらえる医療者/セラピストを紹介してもらいましょう。

医師に診断をしてもらった上で、弾性着衣を使いましょう。弾性着衣(ストッキングやスリーブなど)には、何百種類もあります。専門的な知識をもった医療者/セラピストに相談して、圧迫圧、素材や形状、サイズなど、自分に合ったものを選んでもらうことで、痛みや不快に感じず、快適に着用できるようになります。また、着用したり脱いだりするのにもコツがありますので、専門のセラピストに習ったり、インターネットで動画を見たりして、練習してみてください。


リンパ浮腫の患者会、ネットワーク

リンパ浮腫の患者会がいろいろな地域で開かれています。患者会には、患者さんはもちろん、医師、リンパセラピストやリンパ浮腫に詳しい医療者など、いろいろな職種の人が参加しています。

患者さんの治療のサポート

リンパ浮腫の患者会では、同じ立場の人同士で情報交換を行ったり、講習会を開いたりしています。お互いに密に協力することで、セルフケアのためのとっておきのヒントを聞けたり、運動やスキンケアを始めるきっかけになったりします。そうすることで、治療効果がしっかり出て、生活の質(QOL)がより高くなります。

最近では、オンラインで行われている患者会もあり、全国どこにいても参加できるようになっています。ぜひリンパ浮腫の患者会、ネットワークを探してみましょう。


患者さん一人ひとりに合わせたリンパ浮腫治療

一人ひとりに個性があるように、リンパ浮腫患者さんにも個々の状態(身体機能、文化、疾患の状態や生活、家族背景など)に合わせた圧迫療法が必要です。弾性着衣は今やたくさんの種類があるだけでなく、一人ひとりの患者さんのために、治療効果だけでなく、ファッション性も重視した製品もあり、きっと個々の状態にあった製品を見つけることができると思います。

リンパ浮腫とファッション: 多様なカラーと柄でリンパ浮腫治療に個性と自信を!

弾性着衣は、リンパ浮腫患者さんが自信を高め、前向きに着用できるよう、さまざまな形やカラー、柄を組み合わせ、「あなただけの1着」を作ることが可能です。
いろいろな色、形、柄、デザイン、さまざまなファッションをお楽しみください。

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